海外駐在と子供たち

先日、ある本を教えてもらった。

 

「サードカルチャーキッズ  多文化の間で生きる子どもたち」

https://books.google.co.jp/books/about/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%83%E3%82%BA.html?id=kHLFcQAACAAJ&source=kp_book_description&redir_esc=y

 

タイトルの通り、親の仕事や様々な事情で海外で暮らすことになった子どもたちについて書かれた本。

 

自分の生まれた国、親の育った国、住んでいる国、そこから更に移り住んだ国、帰ってきた国。

その全ての文化の狭間で、揺れ動く子どもの心。

 

違う国の違う文化に戸惑ったり、住んでる国と親の教育の文化的違いに戸惑ったり、自分や友達の引越しに喪失感を味わったり、今まで当たり前にしてきたことが違う国では失礼にあたるなどで恥ずかしい思いやプライドを傷付けられる出来事が起こったり。

そんな事例もたくさん載っていた。

 

本を読み進めながら思い当たることが次々に溢れ出てきて、色んな感情が入り交じってすごく複雑な気持ちになった。

と同時にこの本に出会えてよかった。

この本を教えてもらって本当によかった、と思った。

 

 

【具体的に思い浮かんだこと】

 

・日本からインドに引越して約2週間の間。当時2歳だった息子は片時も、ほんとに1秒も親から離れなかった。トイレでも台所でも足にしがみついていたし、公園に遊びに出ても私に触れてないとパニック状態で泣いていた。まだ2歳で「外国に引っ越す」ということを言葉で説明しても理解は難しい年齢。いきなり全ての環境が変わって不安だったし恐かっただろうな。

 

・言葉が分からないうちの方が馴染みやすいのではと、引っ越して少し落ち着いた頃に入ったスクール。先生は英語、お手伝いの人はヒンディー語。家では2歳の片言でも何となく言いたいことを分かってくれる人がいるのに、そりゃ泣くよね。

 

・家では行儀悪いと教えられることがスクールではOK。逆も然り。どっちを守ればいいか戸惑ったのかな?

 

・どこに行っても「ohー!very cute boy!!」とか言ってインド人にかまわれて写真を撮られることが多くて、すごく嫌がっていた。

 

・不在の間に家の鍵を交換されて家に入れなくなって怒り狂って電話でブチ切れたことがあったけど、その横で誰よりも不安でいっぱいだったのは息子だっただろう。

 

・アクシデント、トラブルが日常的に起こるから、気をつけていてもついつい子どもの前で“インド人”や“インドという国”の悪口が漏れてしまうことがあった。息子にネガティブな固定観念を植え付けてしまったところがあるだろうなと思う。反対に、自分が大好きなスクールの先生のことを悪く言われてるような感覚になったかもしれない。これはどこにいても同じだと思うけど、子どもの前で何かをジャッジするような発言は本当に気をつけようと思った。

 

・電車やバスより飛行機に乗ることの方が多い生活。日本の新幹線の車内販売で当たり前の顔して「apple juice!」なんて子どもが言って、大人は恥ずかしくて謝ったり笑ったりするけど、それで本人たちを辱めてなかったかな?

 

・急に友達が帰国になってお別れしないといけない。馴染みのドライバーさんが急に辞めてしまう。など、心の準備もままならない間にお別れの時が来て、次の日からはいつもの風景にその人たちがいない。

特にうちは周りの友達がことごとく帰ってしまった時期があった。送別会をするために集まったメンバーの中で、うちだけが送る側なんてこともあった。息子はスクールのクラスで日本人が1人になってしまって寂しさや孤独や不安、たくさん感じただろうと思う。私も深い喪失感を感じたけど、息子もそうだっただろう。

 

・「世界中旅行行ったしうちはお金持ち!」なんて大声で話されて、店から逃げるように出たり「そんな事言わないで」って言ったけど、子どもからしたら『旅行たくさん行く=お金がある』という当たり前の構図があったんだろう。

インドにいると美味しい肉料理に飢えているし、タイやシンガポールなどに日本食材を買い出しにいかないと日本人的な生活が難しい。日本に比べると圧倒的に予定通りに物事が進まないストレスの多い日常からたまには解放されたい。そんな理由から、みんな海外旅行に行くことが極々普通のことだった。お互いに旅行の話をしたり情報交換したりをよくしていたのに、日本に帰ってきたら急に言わないでなんて言われたら戸惑うよなぁ。

 

・インドでは、日本の幼稚園児の年齢からお勉強らしきことが始まる。言葉が分からない。言われてることは分かっても言いたいことが言えない。そんな中で勉強もしないといけない。同じクラスのインド人の子たちはいつも優しく息子を助けてくれていたし、先生もよく理解してくれて息子に「お片付けマスター」の称号を与えて活躍できる場を作ってくれていた。でももしかしたら本人は自分だけができないことが多くて劣等感を感じていたかもしれない。

 

・上の反対に、日本に帰ってきて日本の幼稚園に行った時にも劣等感のようなものを感じていたのではと思う。

日本の童謡をみんなほど知らない。縄跳び、鉄棒(インドにない)などがほぼ未経験でできない。

能力はあるのに、知らない、やったことが無いせいでできないことがいくつかあった。

縄跳びなんかは家でやってみたこともあったけど、興味も薄かった。子どもたちが幼稚園や保育園の集団の中で「楽しい」とか「出来るようになりたい」とか気持ちを育むのって、家庭ではできないすごく有難いことだと思った。

日本に帰ってきた時は周りはある程度出来るようになってる年齢だったし、かっこ悪いとかできない姿を見せたくないとか色んな想いが多分今もあるんだろうな。(もちろんずっと日本で育っても苦手だったかもしれないけど)

 

・くん、ちゃん、を付けて呼ばれるのを好まない。インドでは先生からも友達、友達の親など、周りのみんなが呼び捨てし合う関係だった。だから敬称を付けてよばれると少し遠くに感じてしまうしなんだか落ち着かないと言っていた。

 

 

 

色々書いたけど、もちろん悪い面だけじゃなかったと思う。

 

・子どものうちに、世界には色んな人や色んな文化、色んな言葉、色んな生き方があることを感覚的に知っているのは、私からしたら羨ましいし、経験できてよかったと思う。

 

・地図で見るだけじゃなくて、実際に飛行機で移動してどのくらいの時間がかかったのか、どんな景色を飛び越えてその場所にたどり着いたか、とか平面の情報を立体にすることができる。

 

・行ったことのある国のことはニュースなんかで見ても記憶に残りやすいし、写真を見て思い出したり、身近に感じられる国がたくさんあるのはいいことだと思う。

 

 

 

急な海外駐在で戸惑うのはなにも子どもたちだけじゃない。

会社からの辞令などによって、パートナーや家族を大きく巻き込むことや、会社と自分のすべき仕事と家族の気持ちの板挟みになるだろう。

パートナーの駐在に帯同することを決めた方も、右も左も分からぬ状態から、いきなり日々暮らすためのスキルと家族を守ることを託される。

住み慣れた環境も人間関係も、全部が無くなったような不安の中で、日々生きていかないといけないし、家族を生かさなければならない。

自分のすべきことでいっぱいいっぱいで、子どもの心の細部まで目を向けることは決して容易いことじゃない。

 

どこで買い物をすればいいのか。

どこで遊ばせていいのか。

言葉の壁もある。

急にケガや病気をしたらまず何をすべきなのか。

今までの常識は通用しなくて、電話のかけ方ひとつ、第一声なんて言えばいいかも分からない。

 

そんなところからスタートして、みんな必死にインドの暮らしに慣れようと頑張っていたし、お互いに情報交換したり助け合ったりした。

そのお陰で深い絆で繋がれたし、一生物の友達、戦友と感じる友達もたくさんできた。

 

子ども同士も同じ。

家に行ったり来たり、お泊まりしたり、四六時中一緒に過ごした兄弟のような友達。

ケンカもたくさんしたけど、今でもすぐに思い出して話題に上がる大事な人たちだ。

 

 

それぞれの会社や家族に色んな事情があって海外に住むこと。

それはうまく行けばいい面もたーくさんある。

だけど、うまく馴染めなかったり、変化を受け入れられなかったり。

家族の誰かが心に何かを抱えていないかということにはよく気を付けて見守らないといけない。

 

特に子どもは、まだ語彙力が足りなくて気持ちをうまく説明できないこともある。

親が大変そうにしているのを見て我慢してしまうこともある。

表向きの言動が全てじゃないし、本心を隠すための言動だったりもする。

 

一時帰国から駐在先に帰る時、お友達とのお別れが来た時、家族が離れて暮らす決断をした時など、嫌がる子どもに事実を伝えて説得するより、ただ子どもの気持ちに寄り添って共感して話を聞くことも大切だろう。

当時抱えていたそういう気持ちを、大人になって思い返して再体験することでその時の感情を表現出来て解放されたという事例も載っていた。

海外に住んで豊かな暮らしをしていると分かっているからこそ、苦悩する自分を「贅沢な悩みなんだ」と否定してしまって苦しむ子もいる。

 

 

この本を読み終えて自分を振り返った時、息子が戸惑ったり不安やどうしようもできないもどかしさを感じていた時に心を寄せられてなかったかもなぁと思った。

息子にとってはインドの生活の中で当たり前だったことを、日本社会の当たり前と比べて面白がって笑ってしまってたなぁとか。

親が決めたことに従うしかない立場の弱さがあることに気付けていなかった。

インドに行く前に、行ってる間に、この本に出会っていたら、違う文化の国に住むということを子供目線で少しだけでも理解してやれたかもしれない。

 

 

インドで出会ったみんなはもちろん、海外駐在に帯同した経験のある人、その予定がある人などなど。

少しでも気になった人はぜひぜひ読んで欲しい。

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